まだ働けるのに、行く場所がない。
定年でも、退職でも、事業をたたんだのでもいい。
ある朝、通う場所がなくなる。
最初の何日かは「やっと休める」と思う。
ところが少し経つと、心にぽっかり穴が空いていくのがわかってくる。
問い合わせも、相談も、作業の依頼も来ない。
気づけばメールボックスに届くのは、スパムと営業メールばかり。
誰からも必要とされていない——そんな感覚に、今あなたは向き合っているかもしれません。
その感じ、私も通りました。
だから今日は、そこからどう抜けたかの話をします。
引き継ぎが終わって、はじめて静かになった
私は長く続けたWeb制作の事業を売却しました。
会社そのものは今も休眠企業として残っていますが、事業からは手を引いた。
売却までの2〜3ヶ月は、引き継ぎの作業でずっとバタバタしていました。
問題は、それが終わった後です。
やることが、なくなった。通う会社がない。
朝起きても行く先がない。
最初は「ゆっくりできる」と思っていたはずが、公園で遊ぶ親子をぼんやり眺めながら、俺は何をしているんだろう、と自分に問うている。
部下も上司もいない。
オフィスも畳んで、備品も処分して、文字どおり行く場所がなくなっていました。
リタイア、と言えば聞こえはいい。
でも実感は違いました。
走っている列車から自分だけ降りて、遠ざかっていくのを見送っているような。
あの感覚です。
「営業はお断りしております」
いちばん心をえぐられた出来事があります。
事業をたたんでしばらく経った頃、昔とても良くしてもらったお客さんに、近況報告のつもりで電話をしました。
ただの挨拶です。ところが受付から返ってきたのは、思ってもみない一言でした。
「営業はお断りしております」
社名も名前も伝えたのに、営業と決めつけられて、取り次いでもらえなかった。
メールを送っても返信はない。
自分という存在が、ビジネスの世界から「もう要らない」と宣告されたようでした。
もう俺は必要ないのか。
利用価値がなくなったのか。
透明人間になったような、あの疎外感は言葉にできません。
実力は、何も落ちていなかった
転機は、偶然でした。
会社は畳んでも、個人のウェブサイトだけは残していました。
事業を終えた説明を載せただけの、閉鎖のお知らせのようなページです。
そこに、ある日ぽつんと一件、問い合わせが来た。
「ホームページを作ってほしい」と。
時間はあるし、と引き受けました。
現役時代と同じ、100万円ほどをいただいて制作した。
そして完成から一ヶ月後、お客さんから連絡が来ました。
ひと月で何人も新規のお客さんが取れて、その後、制作費は三ヶ月以内に回収できました、と。
心から喜んでくれた。
そのとき、はっきり思ったんです。
ああ、俺の力は何も落ちてないじゃないか。
会社という器はなくなった。
でも、30年かけて積んだ知識も経験も、何ひとつ失われていなかった。
私は業務としてのWeb制作をやめただけで、その力は自分の手の中にちゃんと残っていた。
会社は「配線」だっただけ
ここで気づいたことがあります。
会社を辞めて失ったのは、実力じゃない。
会社という「配線」です。
自分の経験を世の中とつなぐ配線。
それが切れただけなんです。
だから急に、誰からも連絡が来なくなる。
実力が消えたわけじゃない、世の中とのつなぎ目がなくなっただけ。
だったら話は簡単で、配線はもう一度、自分で引き直せばいい。
経験は全部、自分の中に残っているんだから。
私はそこから、その配線を自分で引き直す作業を始めました。
40年近い社会経験を、ここで終わらせるのは違う。
そう思って、また動きはじめたんです。
もしあなたが今、列車を見送っているような気持ちでいるなら——それは終わりじゃない。配線が切れただけです。
引き直し方は、これからこの場所で書いていきます。
